ショートストーリー


ここではニコニコ動画に投稿した作品の、後日談や作品で描かれる事の無かった場面を書き綴ったものが置かれているスペースです。

月下の白蓮

霊夢、夢の後

月下の白蓮(村紗の悩み)
〜とともシリーズ;「月下の白蓮」で、村紗が1人寝ているときに起こった出来事〜


 ベットの上で横たわっていると、どんなアドバイスを受けようと、どんなに良く効く薬を飲んでもどうしたって気がめいる。


どうして海が無いんだろう
どうして海が無い事が気になるんだろう
聖を助けるときにはそんなことどうだってよかったのに


 風邪を引いたのは結局、私がそんなくだらないことを悩んでいたからに違いない。永琳といかいう月の頭脳は私のそんな悩みを見抜いていた(どうして彼女は私が舟幽霊であることを知っていたんだ?)。彼女が言うには「単に一つの目標を達成した後の燃え尽き症みたいなもので、貴女の場合はさらに生い立ちの上でアイデンティティを失っているから、それが顕著に出たのでしょう」ということだった。たぶん、大筋では間違ってないし、私もそう思う。彼女は普通に栄養の高い食事と、簡単な抗うつ剤をくれた。でも1人でいる方が気がめいるんだけどなぁ。聖も封印されていたときはどうだったのだろう、気がめいってたのだろうか、それとも封印されると、そんな思考すら許されないのだろうか?
 こころなしか、こうして1人で沈んでいても、海の無いこの世界の底なしの沼に沈んでいく気配はなく、違う事を考える事が今は出来ている。良く出来た薬をくれたものだ。でも薬に頼ってもいけない。あ、そもそも薬なんてもらったことが聖にばれたらものすごく心配されて、またこちらの気が重くなってしまいそうだな。これは大変。
 ぼんやりと思考の海を当ても無く漂っていたところに、ウサギがやってきた。
「気分はどうかしら」
「えぇ、良好ですよ」
「お師匠様のお薬は良く効きますからね、きっとすぐ治りますよ」
「ありがとう、ところで貴女は?」
「あ、すいません、私、レイセンといいます」
赤い目をした彼女は人が良さそうだった。
「私は村紗、舟幽霊の妖怪です、このたびはお世話になりました」
「いえいえ、これは私たちの役目です」
「そうですか」
役目・・・私は永遠亭の起こした事件について詳しく知っている訳ではない。が、たしか、月からこの屋敷の主を守る過程で起きたのが永夜の事件だったはず。ということは、別に他の妖怪や人間に治療を施す事は本来の「役目」ではないはずでは?
 あんまり思った事を露骨に聞いて相手の気を悪くする訳にもいかない。言葉を選びつつ、私はこの疑問の答えを知ろうと考えた。が、頭がそんなに回らない。とりあえず、素朴な疑問の形でぶつけてみた。
「どうして、このような事をやっているのです?」
「さぁ・・・実際のところはお師匠様に聞かないと分かりません」
「私も手伝っているだけなので」
「手伝う・・・ですか」
「えぇ、私はお師匠様を信頼しています」
「誠実な方です、だから、私はお師匠様についていきます」
ずいぶんと盲目的な・・・私はそこまで聖についていけるだろうか?う〜ん、原理主義的なところが聖にはあるから、もう少し丸くなってもいいと思うことも間々ある。そうすると、ここまで言い切る事はできなさそうだ。
「うらやましいですね、そこまで言い切れるとなると」
「まぁ、私の理解を超える事もありますけど
 でも、終わってみればたいてい納得がいく事が大半ですから、
 ともかくも、私はお師匠様に預けています」
「なるほど、いい人に出会えたんですね」
「えぇ」
私はこの身を白蓮に預けているのだろうか?もしそうしたらこの悩みは解消されるのだろうか?
「悩みとかは、ないんですか、このままでいいのだろうか、とか」
「そうですね、あんまり」
「それに、こうしてお師匠様のお手伝い、治療のお手伝いですが・・・
 これも嫌いじゃないですし」
「なるほど、そうですか」
私はレイセンがこうして幸せそうな理由が分かった気がした。私も聖のやってることを好きになろう。多少青臭くても、手伝ってみよう。そうしたら、命蓮寺の一員として、きっと自分を見つけられるに違いない。妖怪としての出自にこだわる必要は無いんだろう。きっと、そうだ。


 「鈴仙?」遠くで彼女を呼ぶ声がする。れいせんは私と簡単な挨拶をして声の主の方に行った。私はまた一人になったけれど、海原に漂っている感覚はなかった。聖のもとへ。


私は聖を思った。


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霊夢、夢の後(花火)
〜とともシリーズ;「霊夢、夢の後」の後日談〜



 霊夢が引退して何回目かの夏、命連寺が夏祭りをやることになった。妖怪と人間が一緒になって祭りをするにはおあつらえの場所だ。この祭りに際してずいぶんと白蓮は飛び回ったらしい。守矢の連中も説得に応じて(というよりは参加しない場合の不利益を考えて)祭りにやってくるらしい。ずいぶんとまぁ大きな祭りになりそうだ。
 
「よう、元気か」
いつものように霊夢の家に行くと、珍しく霊夢は居なかった。縁側には手帳が開かれ、絵筆と乾いた絵の具がおかれていた。なんだ、ただ生きてるだけじゃなかったと思うと、妙にうれしくて顔が緩もうとしているのだが、ひとりでにやにやするのは気味が悪いのでそれを押さえようとする意識とけんかが始まる。顔の筋肉が引きつってきた。これじゃあ、にやにやしてるほうがまだましだ。顔をごしごしと乱暴にこすっていると、山へと続いている小道から霊夢がおりてきた。
「あら、魔理沙、いらっしゃい」
「おう、じゃましてるぜ」
どうやら自生する香草と柴をとってきたらしい。そして、いつもの様にお茶を淹れてくれた。お茶がいつもより甘い気がするのは、さっき、密かな趣味を見つけたせいだろう。霊夢は何気なく、そして素早くそれを片付けていた。
「なぁ、こんど、命連寺で夏祭りがあるらしいが、行くか?」
「そうね、いかないわ」
婉曲にさそっても答えてくれないだろうと思って素直にいったが、素直に断られた。もう少し、考えてくれてもいいじゃないか。
「でもさ、ここにきてから一度もここをおりてないんだろ?」
「ええ」
「必要がないのは分かるしさ、その・・・能力を失ってることで哀れまれるのが厭なも分かるけど」
「わからないでしょ、さとりじゃないんだから」
珍しく語気を強めて話を遮ってきた。触れられたくない話題ではあるだろうけど、かといってこのまま何もしないまま人生を終えるなんて、夢のようなあの数年間だけを思い出しながら生活するなんて、そんなのだめだ。多分、それは霊夢も分かっているはずだ。
「一緒の事は考えてないかもしれないけど、わかるはずさ」
「霊夢だって、このままでいいとはおもってないだろ」
そういうと、霊夢は哀しそうな顔をした。
「一つだけ聞いていいかしら」
「なに?」
「あなたは人間として一生を終えるつもりなの?」


 それは私が無意識のうちに避けていた問題だった。私だっていつまでも若くはない、そんなことは頭ではわかっている。いずれ、魔女になるか、人間として死ぬかを選択しなければならない時が来ると。でも私はまだ若い。実感のない自分の事より、いま、ほとんど何もしないまま朽ちていこうとする友人の方が私には大切なんだ。


「わからない、まだ先のことだから・・・」
「そう・・・なら私だって同じよ。今は、このままでいいと思ってる」
「絵を、見たでしょう?」
「おう、まずかったか?」
「別に。ちなみに紫は一言、『下手ね』としか言わなかったわ」
「今はとりあえず、紫に、『まぁまぁね』と言わせたいだけよ」
「そうか・・・」
 
 ちょっと、紫が妬ましくもある。でも相手は幻想郷の始まり、いや、それ以前から生きてきた妖怪だ。私が太刀打ちできる相手ではないのかもしれない。衣食住以外に生きるために必要なものを示していることぐらい、本当は予想しておかなければならなかったんだろうな。でも、紫は霊夢にとって(私にとってもだが)、常に前にいる存在であって、となりに並ぶ存在じゃないはず。私は霊夢の隣にいることができるはずだ。今でも、これからも。私が、人間である限り。
 その日、たくさんの旧知のやつらに会えるとか、あいつらもそれなりに会いたがっているとか、祭りに行く様に説得したが、霊夢は首をたてに振らなかった。私は珍しく一番星が出る前に、霊夢の家を去った。


########
 夏祭りの当日、命蓮寺は無数の提灯の光に包まれ、影が三つ、四つの方向に柔らかに伸び、揺れていた。白蓮の説得力か人柄か、妖怪も人間も私の思った以上にたくさん訪れていた。影が重なり、歌声や音楽が闇夜に吸われていく様は人も妖怪も神様も酔わせる力があるのかもしれない。私は旧知の妖怪達と暫く話していたが、私も妖怪も、霊夢のことがちらちらと頭をよぎって、それほど会話を楽しむことができない。
 花火が打ち上がる時間になって、ちょっと、問題が発生したらしい。30分ばかり遅れるそうだ。
「助け舟だと思わないか?」
いつのまにやら萃香が隣に立っていた。
「今なら間に合う」
「花火、あそこから見えるはずだ、わかるだろう?」
 萃香に礼を言ったかどうかは覚えていない。ただ、箒にまたがり星空を駆け、霊夢のいるところへと向かっていた。
「よう・・・!」
急いだために、息が苦しかった。あんまり速く飛ぶものじゃない。
「あら、今日は祭りじゃなかったの?」
「いや、はぁ、実はな・・・」
息を整えながら事情を説明しようとした背中の向こうに花火があがった。
「こういう、はぁ、ことさ」
霊夢はなかばあきれながら、私を見ていた。花火が一つ華を咲かせるたびに霊夢の頬を赤や、橙に照らした。
「命蓮寺もつめが甘いわね、私に微妙に見える様に花火をあげるなんて」
振り返ると、なるほど花火の大輪は半ば手前の木々に遮られていた。
「行こう、霊夢、見える所まで」
私はそういって腕をつかんだ。霊夢はなにも言わない。
「いい場所を知ってるんだ、古い大きな木の枝、そこに座ってみよう」
一つ尾根を超えた所にある古い大きな木は半分枯れており、横にのびた太い腕のような枝は私たちが腰掛けてもそれに気づいてもいないようだった。
 花火は続いている。柳のように尾を引く花火や、次々と色を変えていくもの、菊、撫子、朝顔をかたどった花火。私は隣に霊夢がいるだけで、こんなに幸せだとは思わなかった。きっと、きっと霊夢もそう思ってくれているに違いないと願った。








最後を飾る様に夜空を明るく染めあげて、轟音を山々に殷々とこだまさせながら何発もの花火があがった。山々の反響がおさまり、風に祭り囃子がかすかに流れてきた時、余韻を破ったのは霊夢の一言だった。
「私はもう飛べないんだから、強引に箒にのせて空を飛ぶのは勘弁してよ」
そんなくだらない事をいう霊夢はきっと今、私と同じ様に満たされているからだと思う。
「わかったぜ、じゃ、もどろうか・・・」
「えぇ・・・」




なにひとつ解決してないな、と霊夢を背中に感じながらふと思ったが、今はどうでもよかった。


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1 件のコメント:

  1. マンガもいいですが、文章もうまいんですね
    独特の雰囲気が心地よく、毎回更新を楽しみにしています

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