2013/07/21

週末雑感

ここのところ、夜は涼しくてご機嫌な李花尺です。

さて、梅雨の時期のお話を作っているのですが、周りはすっかり夏模様です。・・・気にしない、気にしない。「読書感想文でも書けば?」というコメントをいただいたので、最近読んだ本を一つ紹介してみましょう。


水上勉 櫻守

なによりもタイトルとなっている「櫻守」という響きが良いですよね。「櫻守」という言葉は優しくて、誇り高く、芯が座っている様に感じます。主人公の見た古い記憶に出てくる桜は、甘く、退廃的で、美しく、優しい色をしています。でもそれは決して社会的には許されるような場面ではない。事実、主人公は故郷の親類との関係をうまく築くことは出来ませんでした。だからこそ、記憶の中の裏山に咲く桜が美しい情景として変質したのかもしれません。
 作品は第二次世界大戦の前後を描いています。その動乱のなかで人が強かに生き、価値観が変わるなかで、桜を中心としたこれまでの価値観を「守る」ことを描いています。ただ、主人公は特別に地位のある人物ではないので、時代には逆らえませんが・・・。ですので、物語はその時代に「あった」ことを感じさせてくれました。そして主人公は幼い頃ともに過ごした祖父の姿に似てくるのでした。人というのはやはり古い記憶に回帰していくのでしょうか・・・?
 また、舞台が関西なので、私としては馴染みのある地名も多く、親近感が湧きましたね。それにしても作中に出てくるいわゆる「関西弁」の綺麗なこと。私も擬似関西弁みたいな言葉を普段は使っていますが、ここまで流暢な、そして綺麗な言葉遣いをすることは出来ません。もっとも、現実にも見たことがないですが・・・。作中、別段特別な言い回しを使っているわけではないですが(基本的に市井にいるごく普通の人物達ですから)、優しいんですよね、言葉の終わり方が。険がないといいますか。
 ところで、いくつかの謎は解かれずに物語は終わりを迎えてしまいました。人生というのは墓場に入る前にすべてが解決するわけではないですから、そのあたりもリアルといえばリアルです。全体的に二階調の情景が広がっているように思えるのですが、先に述べた過去の出来事を筆頭にふと、豊かで優しい色調の世界が広がるように感じます。
 それにしても桜について一家言ある人達が出てきますので、なんだかそれに影響されてしまいそうですね。


 ちなみに拙作「春ですよ」にも櫻守をしている人が出てきますが、これはこの作品を読む前にそのタイトルだけ知っていて、「櫻守」って響きが良いなぁと思っていたのでした。

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