2013/08/04

雑感

どうも。少し気になることがあったので。


ときおり、発酵・酵母・酵素をキーワードとする「健康によい食」に関する話題を見かけます。そのことに対する疑問の記事も見たことがありますが、私からもいくつか。


最初に。

酵母:生き物です。糖を分解してアルコールをつくったりします。当然、種類によってその働きはまちまちです。

酵素:タンパク質です。人間から細菌まですべての生き物が作ります(ウィルスはのぞく)。基本的に一つの酵素は一つの反応にしか関与しません。ですから人も細菌もたくさんの種類の酵素をたくさん作ります。

発酵:微生物による人間にとって都合の良い高分子化合物(デンプン・タンパク質・脂質など)のちょうど良い分解のことを指と言えます。働きとしては腐敗と同じです。いろんな微生物が関与すると最終的に水と二酸化炭素やその他(アンモニアなど)になってしまって、人間には使えなくなります。


一点目。

家庭で酵母の「タネ菌」を自分で取るというのはほぼ不可能です。かならず細菌が混じると考えてください。

 もちろん、細菌が混じることはなにも悪いことばかりではありません。酵母では分解できないもの、作ることのできない栄養素はたくさんあります。それらを共存する細菌などがつくることで食品としての栄養価を高めることは大いにあり得るでしょう。ですが、共存する細菌が人間に毒になる成分を作ることも十分にあり得ます。また、当然人間の体内で増殖し悪さをする、「病原性」をもった微生物も混じっている可能性があります。
 ですから、自分のオリジナル酵母を使ってパンを焼く、発酵させる、というのはそういった危険性と隣り合わせであることをきちんと理解しておく必要があると思います。


二点目。

酵母液(食品を瓶詰めして酵母(酵素)の力で発酵させたもの)はなにか分かりません。

 なぜ、何度やってもパンはパンに、納豆は納豆に、漬け物は漬け物になるのか。それはその過程が非常に「シビア」だからです。パンは発酵の過程でかなり温度が上がります。納豆は熱々の大豆を使います。漬け物は塩分を多量に含んでいます。この、高温・高塩分というのは普通の微生物にとって生きるのに非常に厳しい環境です。ですから、余計な細菌が増殖することができない、死んでしまうために、いつもパンに、納豆になるわけです。
 それに対して、酵母液の作り方は基本的に「食品を水につけて冷蔵庫に入れる」だけ。これも「低温」という厳しい条件がついているように見えますが、基本的に微生物は低温に置かれるとその働きは鈍りますが、死にません。ですから、冷蔵庫にいれておいた食品でも食あたりするわけです。なので、低温は人間にとってあまり嬉しくない微生物を押さえる働きを期待するのは難しい。「低温で有用な微生物だけがよく活動することはない」とは言い切れませんが、基本的に微生物がゆっくりとやりたい放題していると考えて良いでしょう。時として非常に有用な素材になるかもしれませんが、逆もまたしかりです。つまり、同じ品質のものを得る、というのは非常に難しいと考えられます。
 また、酵母液の気になる点は、気泡を酵母の働きの目安にしていることです。これは酵母が糖を分解してできる炭酸ガスをさしているのでしょうが、細菌も糖を分解して炭酸ガスを作ることが出来ます。というより、人間だって、糖を分解して二酸化炭素を作ってますよ。一般的に生物は基本的に生きていく過程で二酸化炭素を出します(そうじゃない細菌もいっぱいいますが・・・)。ですから、気泡を目安に酵母の働きを判断するのは非常にあやしいといえます。
 一点目と共通しますが、有用な、栄養価の高い産物が得られる可能性もあるが、そうでない可能性も高いということです。腐ったにおいがしたら失敗、というのは間違ってはいません。ですが残留農薬を気にするのならば、腐った臭いがしないから多分大丈夫だろうと、何が増えているか分からないものを口にするのも、同様に慎重であるべきだと思います。自然に増えたものだから安全というのは非常に危険です。
 また、酵母液の調製には煮沸した瓶、水を使うようですが、煮沸に滅菌作用はありません。もちろん、大多数の細菌は死にますが、煮沸でも生き残る方法をもつ細菌は普通にいます。それに空気中にも細菌や酵母は漂っていますから、瓶の開け閉めを普通にすれば、とうぜん、入り込みます。

三点目。

基本的に企業が血眼になって探した酵母や乳酸菌は優秀です。

 先に述べたように自作の酵母液や発酵食品は酵母がどうしても作れないものが出来ている可能性があります。しかし、酵母や乳酸菌そのものにかぎれば、おそらく市販されている酵母のほうが優秀だと考えられます。なぜなら企業が血眼になって他の企業よりもより良い酵母や乳酸菌を探しているからです。自宅でたまたま増えた酵母が市販の酵母よりも優れている可能性はまぁ、高くないでしょう。企業はより幅の広い温度で増える、胃酸に耐える、粉末から復活しやすい、すぐ増殖する、などなどなど、いろんな条件を調べて、都合の良いデータだけを出すとはいえ、それでも他社よりも良い物をだそうと必死です。その努力は決して簡単に超えられる性質のものではないと言って良いでしょう。
 ですから、パンを作るならパン酵母を買ったらきちんとパンができます。自作の酵母でやるのは楽しいでしょうし、いろんなパンが出来る可能性がありますが、それが健康によい・美味しいかは、話が別です。


四点目。

酵素は壊れやすく、働く条件はシビアです。

 酵素はものにもよりますが、基本的に壊れやすく、その働きは人間の体の中では失われるといってもいいでしょう。なによりも食べた酵素そのものはタンパク質(アミノ酸のつながったもの)であり、人間のもつ酵素によって分解されます。そうでなかったら、人間はタンパク質を利用できませんからね。もちろん、分解を受けるまでの間は働きを維持しているかもしれませんが、pH、温度、塩濃度など、さまざまな条件がそろわないと酵素というのは上手く機能しません。ですから、酵素を摂取するということは別にタンパク質をとるという事以上の意味はあまり無いと言えるのではないでしょうか。近年、ある種のペプチド(アミノ酸が連なったものでタンパクよりは短い)は人間の働き(例えばコラーゲンの合成)を増進あるいは抑制するという機能をもつことが分かってきています。ですから、酵素の分解産物が人間の老化を防ぐとか、そういった機能があるかもしれませんので、酵素の摂取を一概には否定できません。ですが、酵素の酵素としての機能を期待して摂取するのはあまり意味がなさそうです。


総括。

万能なものなんてない。

 市販されている酵母が万能でないのと同じで、自分でとった酵母も万能ではありません。しかも自分で作ったものはこれまで述べたように、品質が一定でなく、あまつさえ害をおよぼす可能性もあります。ですが、明らかに腐った臭いがしたら利用をやめたらいいだけの話ですし、ひょっとすると市販されたものを使ったのでは味わえない出来に出会えるかもしれません。そういったよく分からない部分を楽しむのは良いことだと思います。ですが、酵母液を自分で作って、それを利用すれば健康でいられる、というのはまやかしです。健康というのは何か特定の方法で得られるたぐいのものではない。少なくとも、「酵母液を飲んでいる私は健康」は真実であっても、それは必ずしも「酵母液を飲んでいるから私は健康」を意味しません。だといいですね、ぐらいのものです。

 もちろん、たくさんの生物が絡んでいると思われるので、酵母液・手作り発酵食品もちょいと注意しながら使えば、美味しい料理になるのは間違いないと思います。

1 件のコメント:

  1. 全体的に「理屈」であり理系の自分は理解できますが、少し現実から乖離しているかなという感もありますね。

    一時流行ったような「米ぬかを発酵させて飲むと放射性物質排出効果が」とか「酵素でアンチエイジング」とかはまあお前ら馬鹿にするのも大概にせえよ、という感じですけれど、発酵や酵母自体については現実から出発して逆算してみるのも楽しいと思いますよ。ぬか漬けとかね。「理屈」と「現実」にギャップがあることは、すぐに理解出来るでしょう。

    どこが理屈として正しく、どこが現実と乖離しているかを詳しく書こうと思ったのですがコメントにするのは長くなりすぎたので自重しておきます(自分のブログには書くかも知れませんが)。

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